家族の社会経済的状況、家族の健康と数学の習熟度(原著の表題:Family socioeconomic status, family health, and changes in students' math achievement across high school: A mediational model)
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ScienceDirect
2015.08.28 UPDATE
(2015年9月版Social Science & Medicine 140号より 日本語で概要を要約) New York州立大学Barr博士による、アメリカの8000人を超す高校生を2009/10から2012年まで追跡した研究により、家族の社会経済的状況と高校生の数学の習熟度の関連において、家族の健康問題が影響していることが示唆されました。これによると、9年生(14-15歳)時に世帯の社会経済的状況が好もしい場合、子供自身及びその家族が重大な健康問題(病気や怪我)を経験するリスクが減少し、結果として高校(11年生)での数学の習熟度を促進します。さらに、9年生当時の家族の社会経済的状況及び高校時代に入ってからのその変化が数学の習熟度について及ぼす影響の一部は、家族及び子供自身の健康問題により媒介されていることが示されました。
原著では、家族の健康問題が学生の数学の習熟度に関連するのは、家族の健康問題のストレスから、あるいは家族からの学習の手伝いが得られないことなどが原因ではないかと論じられています。
イギリスやアメリカで活発に研究されてきた健康の社会格差(社会経済的な状況により健康度合いに差があること)について、日本でも注目されることが増えてきました。学力習熟度と健康格差を絡めたこの研究は、健康格差が世代を超えて引き継がれるメカニズムの一部を明らかにしたものだと思います。
この研究だけでは、データの性質上特に家族の健康憎悪がどうして学力に影響したのかまでは言及できません。家族の健康問題を心配して、勉強に集中できなかったのかもしれません。しかし、この研究を読んでいて、イギリスの大学院で触れたチャイルドケアラー(またはヤングケアラー)という概念を思い出しました。イギリスで社会科学者を中心に、学齢児または大人への過渡期にある子供たち(学生)の中で、家族のケアを担っている子供たちの経験に注目する一連の研究が行われています。ケアを担うことにより、高等教育や仕事への機会が得られにくいと指摘されています(1995 Becker(編)、2013 Sempikら)。日本ではあまり耳にしない言葉ですが、健康格差や世代間連鎖について考える際に心に留めておきたい概念だと思っています。
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